お菓子の移動販売

 仕事上がりにタバコを吸っていた時の話です。

「お菓子の移動販売」をしているという販売員のお姉さんに声をかけられました。

 以前にも声をかけられたことがあったのですが、その際に私は仕事中なので時間が取れないという言い訳をしていました。

 しかしその日は仕事上がりです。

 私は断る言い訳に困りました。

 

その移動販売の店は、鎌倉の豆腐屋が作ったお菓子を売りにしているそうで、販売員は言葉巧みに商品を売り込んできます。

 今思えば不思議な売り文句です。「鎌倉」というワードはともかく、「豆腐屋が作ったお菓子」はマイナスポイントです。お菓子ならお菓子屋が作ったほうが美味しいに決まっています。

「鎌倉までいく運賃を考えたら安いですよ!」

 お菓子の移動販売は高いです。どれくらい高いのかというと、バームクーヘン1つで1700円です。

 販売員もそれを分かっているのか、お菓子が安いとは決して言いません。

 スーパーで300円も出せば買えるバームクーヘンよりも、鎌倉までの運賃と勝負したほうがいいと考えたのでしょう。

 なかなか上手いことを思いつくものだと感心してしまいました。

 また、その日は雨が降っていました。

 私は屋根のある喫煙所でタバコを吸っていたのですが、その間、販売員のお姉さんは雨に濡れながらセールストークをしています。

 

 販売員のセールストークに耳を傾けた時点で私の負けは確定していたのかもしれません。

 雨に濡れながら数分かけてセールスする販売員に対して、私はNOと言えなくなっていました。

 仕方なく私は1700円とバームクーヘンを交換しました。

 1700円という値段設定が調味料になっていたのかもしれませんが、バームクーヘンは家族に大好評でした。

 実際、スーパーに売られているものよりは美味しかったです。

 

 家族の喜ぶ顔が見られたので結果オーライとします。

 ついでに、バームクーヘンの購入を決めた際に飛び切りの笑顔を見せてくれた、憎めない販売員さんに、感謝です。

建物総合事業本部 大阪支店 U.M