何処からともなく鶏の鳴き声がします。
「コケコッコー」
早朝、日本橋駅で降りて職場へ向かう途中に何度となく耳にしました。ローカルな田舎の村ならまだしも、大阪の大都会のど真ん中では奇妙な違和感があります。しかも、その鳴き声はさほど遠くからではなく、半径50mくらいのように聞こえます。
ある日、興味を持った私は仕事帰り、その場所をついにつきとめたのです。つきとめたというより、たまたまいつもと違った帰り道を歩いていたら周囲の雰囲気にそぐわない鶏小屋を見つけました。元来、動物好きな私はしばしその鶏小屋の前に立って鶏を眺めていました。しばらくすると、鶏の飼い主らしい料理屋の大将が裏口から出てきて、
「狭いところに閉じ込めてたらこんな鶏でもストレス感じるから、たまには表へ出してあげるんや」
そう言って、鶏小屋の扉を開けて中の鶏を全部外へ出してしまいました。驚いている私に
「餌、あげてみる?」
「え、いいんですか?」
ちょうど、鶏小屋の前にコインパーキングの広いスペースがあり、そこで鶏に餌をあげていると、見ず知らずの男性が興味深そうに近寄って来て私の餌やりをじっと見ています。
「あげてみます?」
「え、いいの?・・・すみません」
餌を渡すやいなやその男性は鶏に餌をあげだしました。
多分、男性も場違いな都会の鶏に魅かれたんだと思います。
餌やりという他愛もない行為が知らない者同士を刹那結びつけたのです。
私たちは料理屋の大将の粋な計らいで鶏と戯れるひと時を過ごすことができました。
大将、おおきに。感謝します。
建物総合事業本部 大阪支店 Y.M