男の作法

 鬼平犯科帳、剣客商売、仕掛人 藤枝梅安 等の作家:池波正太郎(1923~1990年)
さんに『男の作法』という随筆があります。
“ 男を磨くきっかけになれば ”と、池波さんが語った言葉が載っています。

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『例えば、「吉兆(きっちょう)」(高級料理店)へ行ったとする。
そうすると椀盛り(わんもり)というものが出るだろう。

煮物というよりも、蓋の付いた塗りもののお椀で一見吸いもののようなんだけどね。
吸いものにしろ椀盛りにしろ、お椀のものが来たら
すぐそいつは食べちまうことだね。』

『お刺身を食べる時に、たいていの人はわさびを取って
お醤油で溶いちゃうだろう。あれはおかしい。刺身の上にわさびをちょっと乗せて、
それにお醤油をちょっとつけて食べればいいんだ。
そうしないとわさびの香りが抜けちゃうし、醤油も濁って新鮮でなくなるしね。』

『そば屋に行って、唐辛子をおつゆの中に入れちゃう。
あれはおかしい。唐辛子をかけたかったら、そばそのものの上に、
食べる前に少しずつ振っておくんだよ。それでなかったらもう、
唐辛子の香りなんか消えちゃうじゃないか。』

『天ぷら屋でも鮨屋でも、お酒は二本までが限界だね。
天ぷら屋に行ってビールをがぶがぶ飲んだりしてたら
もう肝心のてんぷらの味が落ちちゃってね』

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勿論、この他にもいろいろのことが作法として書かれているけれども、
“男を磨く”というのは大変だとつくづく思います。

わさびはお醤油で溶かしているし、
唐辛子は食べる前に少しかき混ぜたりしているし・・・。

この著書の「約束」という章には、次の一文が載っています。

『自分の一生が一つであると同時に、他人の人生も一つであるということだ。
だから時間がいかに貴重なものかということを知っていれば、
他人に時間の上において迷惑をかけることは非常に恥ずべきことなんだ。

約束の時間を守ることのできないやつは、(仕事でも)いいものはできないんだよ。
夏目漱石、泉鏡花、森鴎外でも島崎藤村でも、
会合に遅れるなどということはしていなし、みんなきちんとしていますよ。』

女を磨くのは、もっと大変かもしれませんが、
かっこいい男になるのも楽ではなさそうです。

ちなみに女を磨くなら 田辺聖子さんの著書「歳月がくれるもの」(世界文化社)
がお奨めです。 え、大きなお世話ですって。失礼しました。

取締役 管理本部副本部長 大隅 晃