7月19日から、山梨県立美術館で「生誕200年ミレー展」が開催されています。
画家:ジャン=フランソワ・ミレー(1814~1875年)は、フランス西北部
シェルブール市近郊の小さな村で農家の9人兄弟の長男として生まれています。
裕福な家ではなかったのですが、
篤い信仰心と誠実な愛に満ちた家庭で育っています。
少年ミレーは農業を手伝いながら、書物をよく読んでいました。
ミレーは、「農民画家」と呼ばれています。当時は、「歴史画」「肖像画」
その次に「風俗画」「風景画」「静物画」という序列が厳然と存在し、
サロン展に何回も落選しています。当時の第一人者はドラクロアでしょう。
官展が「方形の間(サロン・カレ)」で開かれていたので
「サロン展」と呼ばれました。
有名な作品に、「晩鐘(ばんしょう)」「落穂拾い」「種まく人」等があります。
山梨県立美術館の常設館でも、「落穂拾い、夏」「種まく人」
「夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い」などがあり、
ドラクロアの作品も6点ほどあります。
彼が38歳の時、知人に宛てた手紙が残されています。
『…額縁ができたら連絡して下さい。
中に絵を入れて見て、必要なら筆を入れる時間が欲しいのです。
題名から予想できる通り(題名:森の薪(たきぎ)拾いの人々 等)、
これら制作中の作品は、神話でも裸婦でもありません。私はそういう主題
以外のもので身を持(じ)してゆきたいのです。
と言ってもそういう主題だからと言って人が私を擁護してくれるなどとは
思いませんが。しかし強制されてやりたくはありません。
自然の側面から受けた印象の結果でないものを作るつもりはありません。…』
私の好きなミレーの作品を2点ご紹介します。
「ポーリーヌ・オノの肖像」と「鏡の前のアントワネット・エベール」です。
ポーリーヌ・オノの肖像は、山梨県立美術館でご欄になれます。
ミレーの最初の妻であるポーリーヌは病弱のため結婚3年目に不帰の人と
なります。
絵の前に立つとき、そのつつましやかさが伝わってくる素敵な絵です。
好みで言えば、「種まく人」より、こちらの絵の方が好きです。
もう一つの作品「鏡の前のアントワネット・エベール」は、
アメリカ人個人蔵のため今回見ることができないのですが、
ミレーの代表作の一つです。是非一度本物を見てみたいものです。
この絵は、ポーリーヌの亡くなった翌年に描かれています。
彼の親しい友人であるフーアルダンの奥さんの子供です。
鏡に映った自分の顔に無邪気に見惚(みと)れる少女への
ミレーの深い愛情が感じられます。
これが後年のミレーの、農家の子供たちに向けられる優しい視線に
つながって行きます。
なお、鏡の利用は後年、
マネの「フォリー・ベルジェール劇場のバー」などにもその影響が見られます。
この絵で、中央の女性の後ろは鏡に映ったものが描かれています。
マネ:フォリー・ベルジェール劇場のバー
(コートールド美術研究所(ロンドン)所蔵)
ミレーは、晩年ようやく貧困から解放され、家族に見守られながら
60歳で亡くなっています。
ミレーの絵は、見終ったあとやさしい気持ちになれます。
府中市美術館館長の井出洋一郎(いでよういちろう)さんが、
「もし、美術館巡りをするなら、迷わずミレーを加えて欲しい」と
著書「農民画家ミレーの真実」で書いておられるが、
素直にうなずける気がします。
山梨(甲府)に行かれたら是非、県立美術館を訪れることをお奨めします。
http://www.art-museum.pref.yamanashi.jp/
先日、国立新美術館(六本木)に「オルセー美術館展」を見に行きました。
http://www.nact.jp/
その中にミレーの「晩鐘」が展示されていてビックリしました。
50×60cmほどの小さな絵ですが、良いものはやはり素敵です。
マネの「笛を吹く少年」、モネの「サン=ラザール駅」や
カバネルの「ウィーナスの誕生」等々オルセー美術館が所蔵する
84点を展示してありました。
山梨までは行けないという方は是非こちらをご覧ください。
なお、9月中旬から、府中市美術館でもミレー展が予定されています。
どなたの言葉か忘れましたが、「人格を磨くなら、良いものを沢山見なさい」
というのは本当だと感じます。
今は、絵画しか見ていませんが、
是非絵画以外でも良いものを観る時間を作りたいと思っています。
参与 大隅 晃