エイト社員ブログ「石井桃子のことば」

高尾山(八王子市)に時々行きます。
朝8時頃、稲荷山(いなりやま)コースを通って山頂まで歩いていく途中、
下りてくる人と出会う時、(無論、お互いに見ず知らずではあるが)、
「こんにちは」と挨拶を交わします。
この挨拶(言葉)は、何とも言えず気持ちの良いものです。
街なかでは、こういう光景は少なくなり、残念に思っています。

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ところで、翻訳家であり作家である石井桃子さんの書いた本には、
皆さんも子供の頃どこかで会っている人が多いのではないかと思います。

クマのプーさん   ノンちゃん雲に乗る   ピーターラビットの絵本
ちいさなうさこちゃん   トムソーヤの冒険   フランダースの犬
小公子   家なき子   ピーター・パン …
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『石井桃子のことば』という本が5月に新潮社から出版されています。
石井さん(1907~2008年)は、平成20年に101歳で亡くなるまでに
約2百冊の子どもの本を世に送り出しています。
「名が残るのではなく、本が残ってくれればいい」と話していたという、
精魂こめた仕事の数々は、その言葉通を裏付けるものとなっています。

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かつら文庫で子どもたちに本を読む石井桃子さん。
左隣の女の子はエッセイストの阿川佐和子さん。

本書に書かれている言葉の中から二つご紹介します。

1.子どもたちよ
  子ども時代を しっかりと
  たのしんでください。
  おとなになってから
  老人になってから
  あなたを支えてくれるのは
  子ども時代の「あなた」です。

2.本は一生の友だち
  本は友だち。一生の友だち。
  子ども時代に友だちになる本。
  そして大人になって友だちになる本。
  本の友だちは一生その人と共にある。
  こうして生涯話しあえる本と
  出あえた人は、仕あわせである。

 
機関誌『こどもとしょかん』に石井さんが書いた
「待合室」というタイトルのエッセイが残っています。

『このごろ、私は十日ごとにお医者にいく。
医院には待合室がある。そこへはいっていくとき、先客があれば、
私は必ず頭をさげてあいさつする。「今日は」のつもりである。
そのとき、おもしろいのは、私を全然無視する人がかなり多く、
そのほとんどが若者、幼い子をつれた母親、「一家の長」といった
だんな方であることである。
私は、そのひとたちの態度のよしあしをいっているのではなく、
事実をのべているだけである。にもかかわらず、
私を空気同様に見るとき、その人たちの頭の中はどう働いているのか、
いないのかについて、私は興味をもたないわけにはいかない。
ところが、先日、待合室に劇画を見ている若者、子どもづれの母親二人、
初老のご婦人と私がいたとき、四十ほどの、さっぱりした身なりの男性が
はいってきた。
彼はドアをあけると、「おはようございます」とはっきりいって、頭をさげた。
すると、部屋じゅうにいたおとな(劇画を見ていた若者もまじえて)は、
そろって彼に礼を返した。
男の人は私の隣にかけ、それきり口をきかずに、手提げから出した
厚い本を読みはじめた。私の番がきて、「ごめんください」と、その人の
前を通ろうとすると、「どうぞ」と、ひざをひっこめてくれた。
その日以来、私は何度その人のことを思いだしたかわからない。
そうしているうち、その人は、昔話から出てきて、私の隣にかけたのだと
さえ思えてきた。その人は、私に「言葉を信じよ」というために、
あの待合室にあらわれたのではないだろうか。』

私たちが日常使っている言葉は本当に大切だなあと感じています。
特に、「ひびき」「簡潔さ」「やさしさ」を備えた言葉は大切にしたいと思います。
村上信夫(むらかみのぶお)さん(元NHKアナウンサー)の著書
「嬉しいことばの種まき」のあとがきには、ご自身の詩が載っています。

嬉しいことばの歌
「おはよう」って言えば、心の窓が開く 
「ありがとう」って言えば、心がニコニコする
「いただきます」って言えば、心がつながる
「おかげさま」って言えば、心がおじぎする
「よかったね」って言えば、心が一つになる
「だいすき」って言えば、心がウキウキする
「だいじょうぶ」って言えば、心がやわらかくなる
「おやすみ」って言えば、心がまあるくなる
「おやすみ」

イギリス詩人の言葉に、
『言葉は大事にしなければならない。磨けば光るものだ。』
というのがあります。
言葉は形のないものですが、このような素敵な言葉が、
日常生活の中にあふれることで、少しでも明るい世の中にしたいものです。

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ところで、当社経営計画書の『推薦図書リスト』に、
この「嬉しいことばの種まき」が今年度から新たに追加されていました。
どなたが推薦したのか分かりませんが、少し嬉しい気がしています。
この推薦図書リストへの書籍掲載については、
一定の基準が必要なのでしょうが、今は出来るだけたくさん載せてほしいと
感じています。
社員の皆さんに、是非とも「生涯話しあえる本」に出会ってほしいからです。

 

参与 大隅 晃